呪文に手を加える(Shifting Spells)

著者:John H. Crowe, III
日本語翻訳:TRAM


「クトゥルフの呼び声(以下CoCと略す)」ルールブックに掲載されている多くの呪文は、実際に探索者たちが使うために用意されているというわけではない。しかし、長期に渡るキャンペーンなどにおいてはこの様な呪文をプレイヤーが手に入れる機会も多いだろう。中でも2つの呪文「復活」と「アザトースの呪詛」は容易に悪用され、またそういった悪用を防ぐために使うことも可能だ。

復活(Resurrection)
あなたは「復活」の呪文を登場させたことがあるだろうか? この呪文は剣と魔法の世界型のゲームにおける同様の呪文と似ているだろうか? プレイヤーにこの呪文を悪用されているだろうか? この事をよく考えて……
 CoCルールブック第五版における「復活」とは、術者が死者を青っぽい灰色の細かい粉か灰のような「本質的な塩と化合物」へと分離させる一連のプロセスである。塩が完全に残っていてどの部分も失われていないならば(一部分しか存在しない場合は、得られるものは口にするのもおぞましいものである)、術者がマジック・ポイントで標的のマジック・ポイントとの抵抗表によるロールに勝てばこの呪文は機能する。呪文を逆に唱えれば、復活した人物を元の粉に戻すことも可能である。複雑であるくせにこの呪文を使用することによるペナルティーはSANを失うこと以外に全く存在しない。SANを失う事だって、大事な友人や恋人を助けるためなら妥当な取り引きと言えるかもしれない。
 この呪文を探索者たちの手から取り上げるよりも、私はこの呪文のメカニズムに手を加える方が効率がいいことに気づいた。数年前の私のシナリオに参加したプレイヤーたちをいらつかせ困惑させた改変は、この呪文にヴァンパイア的要素を取り入れたことだった。プレイヤーたちの手にその呪文が渡った時に彼らが知り得たのはその呪文を唱える方法だけであり、その呪文が最終的にその標的に与える効果については彼らは知り得なかった。呪文を唱える方法の記述は変えていなかった。その代わり、復活した対象はヴァンパイアとなるのだ。だが復活した人物がヴァンパイアとしての利益や力を得ることはない。しかしその人物は己が人間の血を無性に欲しがることに気づく。これは精神的なものではなく、肉体的な欲求だ。人間の血なしではその人物はやせ衰え、死んでしまう。私は1週間辺りに必要とする血の量なども考えた。数日につき1ポイントというのが妥当な線だが、ヴァンパイア化した者に更なる血への渇望を与えた方がより面白いかもしれない(1日辺り1ポイント以上といったところか?)。必要とする血の量を得られなかったり得ることを拒む者はやせ衰えていき、やがては死に至る。大体1日辺り1ポイントの割合でCONとSTRを失っていくが、失った分は劇的に取り戻すことができる。いずれかの能力値が0になった時点で、死が訪れる。しかし能力の喪失は一時的なものである。失ったポイントと同量の血を消費することによって徐々に回復して行く。
 実際に使用してみると、この改変がとても素晴らしいことが分かった。探索者たちは埃まみれの呪文書からこの呪文を発見し、もちろん最初の機会にその呪文を使用した。その機会とは、一度に2、3人の探索者が死んだ時だった。そして全員この罠に引っ掛かったのだ。長期に渡るキャンペーンの中で数名の人物がこの呪文の対象者となった。その呪文の内容を知った者の中には、苦悩する友のように生き続けることを望まずに自分が死んでも復活させないよう頼んだ者もいた。呪文の効果の影響下にある者は皆、異常なる状況下へと追い込まれていった。1920年代のニューイングランドにおいて、生き残るのために必要十分な血を長期に渡ってどうやって集めるのだろうか? 今後のシナリオは言うまでもなく、自己の生活にどういったインパクトを与えるのだろうか? 要するに、愉快な大騒動を巻き起こすことになった。何人かは犯罪者生活へと転向し、また隠遁生活となった者もおり、他人の目を誤魔化しつつなんとか通常の生活を送っている者もいる。フランクリン・ルーズベルトが選出される時(訳注:大統領になった1933年のことだと思われる)まで生き残った者もごく少数だがいた。

アザトースの呪詛(Dread Curse of Azathoth)
CoCのシステムに昔からある厄介な呪文の一つであるアザトースの呪詛はシナリオにもよく登場するし、マーリンのような魔術師を目指し切磋琢磨しているPCならこの呪文を持っている場合もあるだろう。CoCルールブック第五版の記述によると、この呪文はアザトースの名の秘められたる最後の音節のみの至ってシンプルなものだ。正確に発音しさえすれば、標的は対抗ロールに勝たない限りは1D3のPOWを失う。
 凄いことだと思わないだろうか? おそらくPOWの喪失という思いもよらない(突然の)事態は耐え難いものである。肉体的な傷を負わせること無く敵を懲らしめたり拷問を加えることが喜びである者にとってはこの呪文は理想的なものとなる。
 以下はこの呪文を活性化させるオプションルールだ。もし(対抗ロールに)成功すれば、犠牲者から失われたPOWは(まるでヴァンパイアのように)術者へと永久的に移し替えられてしまう。それ以外にはSANを失い、マジック・ポイントを消費するのは同様だ。さらにオプションとして、この呪文に「中毒性」を与えてもいいだろう。術者が呪文の使用に1D6のSANを失い、4マジック・ポイントを消費する一方で、1D3のPOWが犠牲者より得られる。これは罪悪感と同様に快楽をも呼び起こす。術者はこの呪文の中毒になり、その結果定期的に使用する(1週間に1度とか)羽目になることを防ぐには、幸運かINT×5ロールに成功しなけらばならないということにしてもいいだろう。SANの喪失値を1D8に上げるのも妥当かもしれない。この呪文のパワードレイン効果は便利だが、己の肉体を物理的/魔法的にドラスティックに変貌させていない限りはドレインによってPOWを21以上に上昇させることはできない。当然犠牲者のPOWが0になればそれは死を意味し、復活も不可能である(意思の無い極めて攻撃的なゾンビとしてなら可能かもしれないが)。
 言うまでもなくこのバリアントは呪文を非常に強力なものにするが、この呪文の持つ潜在的に有害な副作用は、探索者たちに使用前に考えさせることとなるだろう。過去十年間、私が参加してきた様々なCoCをプレイするグループではこのバリアントルールを様々な形で使用してきた(中毒性は含めなかったが)。確かに当初我々は呪文の記述を斜め読みして解釈を誤った結果としてこのバリアントルールを使用していた。だが、このルールはよく機能しゲームバランスも崩さないことも感じてきた。この呪文を使うことによって強力な魔術師を生み出してしまうかもしれないと危惧する人がいるやもしれないが、POWが高いからといってオカルトや魔道の知識ある強力な魔術師となれる訳ではないことに注意して欲しい。さらに、中毒性の付与やSAN喪失値の増加などといった制限によってそういった心配も無用となるだろう。

最後に
あなたのキャンペーンで呪文に関する問題が発生しただろうか? この記事内のアイデアを読み取って、自分の状況に適用できるか考えてみて欲しい。魔法においては、中身が見た目通りなものなど何一つ無い。プレイヤーたちにいろいろと憶測させるようにしよう。
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1995 John H. Crowe, III


訳者ノート:「復活」はルールブックP.170に、「アザトースの呪詛」はP.169に記載されています。
 「復活」も「アザトースの呪詛」も有名な呪文ですから、思わぬ副作用を秘めているるというギミックを使うのもプレイヤーの知識を逆手にとっているようで、たまにはいいかもしれませんね。(TRAM)


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